佐渡地域退職者連合 副会長 山岸 善晴
農家は3月の声を聞くと気ぜわしくなる。
先日も半日、ため池周りの草刈があった。月末には江(田圃への水路)のごみ・泥上げ等の共同作業で汗をかき、集落の共同体としての自覚と稲作り準備へのスイッチは否が応でも入る。
しかし、作業を終え、辺りを見渡すと区画整備した田圃に休耕田が目立つ。
父が亡くなり、稲作を引き継いで9年(教師を退職して5年)。田圃の半分は知人に預け、私は3反歩(3枚)をよごしている。米の等級はさておき、土日百姓でも何とかやっていけるのも、父の時代に急斜面の棚田を集落どの田でも作業機械が入れるよう基盤整備してくれたお陰だと感謝している。
私の集落は佐渡島の北端。50年前は25戸、小学校と中学校の分校まであったが、現在は18戸と雑貨店1軒のみ。今様な娯楽消費生活と違って、父の世代以前の節制生活は半農(7反百姓)半漁を生業としながらも充分だった。
しかし、私も含めた世代は、今様な文明生活を享受したいがために安定的な現金収入を目指し、サラリーマン化を選択する波が押し寄せており、ましてや自分の息子に引き継がせるきもちもない。耕作放棄地は増えている。
国はこの現状を打破すべく、離島や地方僻地の領土保全・国土活性化をねらい、特に、農業生産に条件不利な中山間地域にその補正と生産活動の継続を目的として、「中山間地域直接支払制度」を導入した(2000年)。
農家が管理する田や草地の面積に応じ、直接現金を支払うもので、第5期(2020~24)を迎える。私の先輩は、他家の田の面倒も見ており、この支払制度による支援を感謝している。私は大型機械の購入資金等を考えるとそこまで踏み切れないでいる。
へき地で急傾斜地棚田の耕作でも安定的な生活ができるような制度設計が後継者の育成に繋がり、本来の「地方創生」につながるのではないだろうか。
故人は「子に美田をのこさず」と諭していますが、美田を遺さないと後継者がいなくなってしまうのではないかと心配するが・・・。