新潟県退職者連合 顧問

早川 武男

 安倍元首相の突然の退場で日本政治の景色は大きく変化している。

 先人は「虎は死して皮を残し、人は死して名を遺す」とおっしゃるが、安倍さんはいったい何を遺したか。

 その1つは、アベノミクスによる負の遺産だ。

 アベノミクスにより株価は上昇した。空前の高収益企業も続出したが、賃金は上がらず、雇用も増えず、目立つほど国内投資は増えなかった。しかし、大規模な金融緩和を続けたことにより政府債務はGDP比257%まで上昇した。「個人資産が潤沢な日本では問題は起きない」「日本人が買っている限り国債は暴落しない」といった根拠なき楽観論が意図的に流布されているが、財政ファイナンスによる膨大な負の遺産は確実に顕在化し、国家と国民は塗炭の苦しみを味わうであろう。

 2つ目は、政治家の倫理観の低下だ。

 憲法解釈の変更と政策遂行のため、意見を同じくする人物を法制局長官にあてるとともに、内閣人事局を創設し人事権を駆使――いや乱用。その結果、官僚の忖度政治がおきた。

 国会質疑ではウソを繰り返すのみならず、逆ギレし、自席から質問者にヤジをとばすなど倫理観の低さをさらした。元経産官僚の古賀茂明氏は「モリ・カケ・サクラに示されたように安倍さんの倫理観は捕まらなければ何をやってもよい」だったと批判していたが、同感だ。これが自民党内にまん延しIRをめぐる贈収賄事件などがおきた。

 後述するが、反社会的団体の旧統一教会と接点があったとする自民党国会議員が、実に100名近くに及んだのは、「安倍さんが接しているから」から「大丈夫」と考えたに違いない。

 功績大なのは、安倍さんが旧統一教会(世界平和統一家庭連合)というカルト教団との抜きさしならない関係を白日の下にさらしたことだ。

 協会のイベントへの出席をはじめ、確認されただけで6回も機関紙の表紙を飾っている。公証60万票の票割を協会に依頼できるほどの親密ぶりである。8月12日、韓国で開かれた同会のイベントで、にっこり微笑んだ安倍さんの写真を掲げての追悼(式)もうべなるかなと思う。

 けしからんのは、家父長的な伝統的家族関係を重視する教会の支援を得るため、「選択的夫婦別姓」の反対や、「こども家庭庁の創設」――『こども庁』にいつのまにか『家庭』が挿入された――などに代表されるよう、国家の基本政策が歪められていることだ。

 教会の元代表は「国際勝共連合」の代表も兼ね、日本の神道政治連盟や日本会議と連携を密にしてきた。最近、自民党内に「保守が右に偏りすぎる」と現状を憂いる声があると聞く。神道政治連盟や日本会議など岩盤支持層から支持を得るため、彼らに政策を合わせているからではないか。

 本来、「右に偏りすぎる」と現状を憂い心配する方々をリベラル野党が取り込まなければならない。多くの国民は「それなりの生活ができる」ことから政治の変化を躊躇しいまの体制を選択する。7月26日付の「どっこい甚句」でも述べたが、リベラル野党に問われているのは、全野党共闘の是非よりも、与党に対抗できる有力な選択肢として広く国民に認められるかどうかなのである。立憲民主党や国民民主党は「批判と対案」とか「対決より解決」などとヤワなことを言っている場合ではない。政党として研きをかけかつ両党の融和に汗をかいて欲しい。