―自然破壊・温暖化防止による共生の道を―

下越地域退職者連合 会長

(新潟県高等学校退職者の会)

 渡部 良一

 今年もはや春遠からじの季節を迎えた。例年にない大雪に見舞われ、1年を過ぎても予断を許さないコロナ禍、そして先ほどは10年前の3・11東日本大震災の余震とされる震度6強の大地震など先行きが大いに危惧される今年になりそうである。

 ワクチン接種が始まったが、新型コロナウィルスが依然として猛威を振るっている。未曽有のパンデミックに襲われた世界、混迷は深まるばかりである。この危機を世界はどう変えるのか。人類はこれからどこへ向かうのか。最初の感染者が報告されてから1年余が経過した今日の感染者数は1億1,000万人を超え、死者数は250万人になろうとしている。わが国では感染者数が43万人で死者数は7,500人余である。中国武漢市で一昨年12月に肺炎患者が相次いだ後世界中に広がった。

 人類の出現以前から存在した感染症は、人類と同じだけ生き続けるに違いない。ウィルスによる感染症・疫病の流行は人類史を突き動かしてきた。古くはギリシャを衰亡させた「アテネの疫病」、ローマの衰退には「ペスト」と痘瘡が一役かい、壊血病と赤痢が十字軍を壊滅させた。そして14世紀ヨーロッパの「ペスト」(黒死病)の大流行である。

 ヨーロッパだけで死者数は2,500万人から3,000万人とされ、実に全人口の1/3から1/4にも達した。世界の死者数は7,500万人から2億人とも推計されている。この人類最大の「ペスト・パンデミック」による人口の激減と労働力の窮乏化は、その後のヨーロッパ社会の根底的転換と人類史総体の新たな時代、すなわち中世の崩壊と資本主義の発生へと舵を切ることになる。そして、教会の権威失墜と宗教改革、文化的復興を遂げるルネッサンスなど変貌した社会は強力な国家形成を促し、中世は終焉を迎えたのである。

 ペスト終焉後のヨーロッパ世界は、15世紀末から始まった「大航海時代」を経て地球規模へと拡大した。それは、南北アメリカ大陸やアフリカ大陸への侵略と略奪の時代であり、同時にヨーロッパ人がもたらした疫病(感染症)による先住民の大量死の歴史でもあった。発疹チフスや天然痘、結核といった感染症によって南北アメリカ大陸の先住民人口の9割以上の命が奪われたのである。人口数百万人を誇ったアステカ帝国やインカ帝国、2,000万人のメキシコ、北米の先住民はことごとく疫病により壊滅状態に陥ったのである。

 さらに、大西洋の両岸で甚大な人口損耗をもたらした1550年代から60年代にかけての「インフルエンザ・パンデミック」があり、18~19世紀には25回の大流行があり、12回はパンデミックだったと考えられている。そして20世紀に入ると「新型インフルエンザ」の発生が5回あり、10~30年サイクルで発生している。スペイン風邪(1918)、アジア風邪(1957)、香港風邪(1968)、ソ連風邪(1977)、豚インフル(2009)である。

 このうち最大の悲劇をもたらしたのは「スペイン風邪」である。世界人口の1/3にあたる5億人が感染し、5,000万人以上が死に至ったとされる。ちなみに第一次大線終結を早めることとなり、兵士が本国に持ち帰ったために、一挙に世界的感染爆発を引き起こすこととなった。日本では3年にわたり感染者は2,300万人、死者数は45万人に上ったのである。

 インフルエンザウィルスは、本来シベリア、アラスカ、カナダなどの北極圏近くで凍り付いた湖沼の中に潜んでいる。そして渡り鳥を介して世界中に広がる。本来動物にはほとんど無害であったが、カモから家畜化されたアヒルには容易に感染し、感染を繰り返していくうちに遺伝子を様ざまに変異させ強い毒性を獲得したものが現れ、人にも大きな被害をもたらすようになった。北極圏近くにじっと潜んでいたウィルスや、熱帯雨林の奥深くに眠っていたウィルスをたたき起こしてしまったのは誰か。

 今や野生動物や渡り鳥に由来すると考えられるウィルスによって新型インフルエンザやエボラ出血熱などの感染症が、次々に現れ世界的流行の危機を招いている。ただただ無限の経済成長を追い求めて、有限の自然と地球の生態系を侵食する人間自身の生産活動が招き寄せた危機以外の何物でもない。今直面している新型コロナウィルスとは、「規制なき暴力的な新自由主義的略奪採取方式の手で40年にわたり徹底的に虐待されてきた自然からの復讐であり、地球温暖化の結果」と結論付けられるであろう。

 新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、政界経済・労働者はリーマンショック以上の打撃を受けるとされる。わが国でも契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなど非正規労働者、フリーランスの雇用が失われ、飲食業などの自営業者が苦境に陥り、「緊急事態宣言」によりその困窮は一層拡大した。

 

 政府は在宅勤務を推奨するが、医療現場も労働者も漁民も農民もそんなことはできない。在宅勤務の仕事は弱者の低賃金労働によって支えられており、その逆ではない。「一律10万円支給」については当初の収入減家族への30万支給案が頓挫して国民一律となったが、本来経済状況に応じた富の迅速な再配分が政治の最重要課題のはずなのに実に右往左往した。10万給付の負担や効果、その後の追加策などの政策の道筋が見えなかった。

 さらに安倍前首相の政治的判断によって突然春休みまでの「臨時休校」を要請、学校現場に大混乱をもたらした。専門家会議の提言では、「子供たちについて現時点での知見では、地域において感染拡大の役割をほとんど果たしていないと考えられる」と指摘していることから、休校措置は有害無益だったといえる。そして、「緊急事態宣言」が出され、7都府県では知事が外出自粛要請や各種施設の使用制限など私権制限を伴う措置が可能となった。その後宣言は全国に拡大され、通勤以外の人の流れは消えて自宅滞在を求められ街は閑散となった。中小企業には休業の波が押し寄せ、失業者も増大し、TVも新聞もコロナ一色で未曽有のコロナ騒動になったのである。

 さらに首相は「人類が新型コロナウィルス感染症に打ち勝った証として、完全な形での東京五輪・パラリンピックを開催する」としていたが、実に空虚に響いた。人類は感染症に打ち勝つなどと胸を張れるのか。楽観と空威張りはかつての大本営発表と本質的に何ら変わりはない。

 その後、安倍政権から菅政権へと変わったが、コロナウィルス対応の本質は変わっていない。1月18日に始まった通常国会での施政方針演説でも、「GoToトラベル」の反省もなく、感染症対策で求められている「PCR検査体制」の現状を問うこともなく、拡充への決意もなかった。また、「貧困」や「格差」問題への言及もなかった。代わりに出されたのが、特別措置法、感染症法、検疫法改正案であった。コロナ禍での人々の不安や恐怖をテコに懲罰社会を築こうとする人権破壊政治の狙いは露骨である。

 そして第3波の襲来に直面し、11(後に10)都府県を対象に緊急事態宣言が出され、さらに飲食店をはじめ多くの企業・店舗での営業が困難になり、そこで働く人の解雇などで暮らしと命が脅かされている。

 そもそもウィルスとは、この地球上に360万種もあるといわれ厄介な存在であるけれども、何億年、何十億年というスケールで生物との関係を持ってきている。おそらく生物と共生しているウィルスもたくさんいると考えたほうが自然である。だとすれば、地球生態系の破壊的要因を極力減らしていくことにより、何百万年も保ってきた人類とウィルスの共存関係を実現し続けていかなければならない。変異・猛毒化したウィルスの襲来に対しては、共生に基づく医学や感染症学の構築によって、「心地よいとは言えない妥協の道」を模索し続けていくしかないのではないのか。

 「感染症を乗り越えるには、世界的な協調と国際的連帯を強めていかなければならない。」「人間は必ず死ぬ存在で一人一人は弱い、だから新型コロナを前にして『地球市民』になる必要がある。」「今こそ21世紀最大の課題である『国家を超えた連帯』を実現させるチャンス」、などの重要な提起がされている。このコロナ危機に際し、世界の秩序や文明を一変させていくことができるであろうか。世界の政治・経済・社会体制を転換していく方向性を創り出していくことができるであろうか。大転換が求められている。まさに新型コロナは人類に対し、21世紀の根本課題を突き付けていると言わねばならないであろう。