新潟県退職者連合 会長
山田 太郎
「戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが、戦争を知らない世代が政治の中枢となったときはとても危ない。」
これは、田中角栄元総理の有名な警句である。いま、政権(権力)の中枢は、田中元総理が危ぶまれていた戦争を知らない世代(二世、三世議員)に牛耳られているのが日本政治の現状である。
長年にわたる安倍政権、引き継いだ菅、岸田政権は、時間をかけて戦争への備えを進めてきたと言われている。
細かい説明は省くこととするが、時系列的には、「国家安全保障会議設置法(2013/11)」、特定秘密保護法(2013/12)、集団的自衛権行使容認(2015/9)、敵基地攻撃能力容認と長射程ミサイル配備(2022/12)、防衛費GDP2%への増額、安保関連3文書(2022/12)、防衛生産基盤強化法(2023/6)など、このように見てくるとかなりの勢いで戦争のできる体制づくりの準備が進んでいることがわかる。
JP労組退職者の会の役員には、戦後の労働運動、反戦運動、社会運動等を経験してきた人が多い。いわゆる組織統合前の全逓運動の流れを汲んで職場や地域で活動してきた人たちであり、寄る年波には勝てず足腰は弱ってきてはいるが、安保や護憲、平和と反戦、人権課題等に、今なお関心の高い人たちがいる。
昨年、「退職者の会」の学習会テーマを設定するにあたり、どのような内容の講演を希望するか、参考までに支部役員を対象にアンケートをとってみた。当然、高齢者に関心の高い、年金、医療、介護等を軸とする社会保障の課題が多く出されてくるものと考えていた。しかし、フタを開けてみたら読みは見事に外れた。時あたかも、ロシアによるウクライナ侵攻の真っ只中という情勢や前述したような危機感が高まる法改正の背景などもあり、キーワードは平和と人権、防衛(国防問題)、憲法(護憲)、自衛隊などをテーマとする要望が多かった。
なぜ、そのような課題(テーマ)を希望したか、その理由として、以下の意見(問題意識)や考えが示された。
- ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や中国から台湾への圧力、頻発する北朝鮮の ミサイル発射など、いま世界は危ない動きを見せている。何かあったときに、果た して自衛隊は日本をしっかり守れるのか。
- 世界の安全保障をとりまく環境は大きく変わり、新たな冷戦の時代に入ったようだ。 本の防衛について、無関心であってもこれからも平和がずっと続く保障はなくなった時代に突入したのではないか。
- 戦後78年、日本は平和憲法のもとに今日の繁栄した社会を築いてきたが、戦争体 験者も少なくなり反戦意識も風化しつつある。自民一強が長く続き、護憲勢力も衰 退している。安倍政権時代に成立した「共謀罪」「秘密保護法」「安保法」など、いつか来た道のヘの不安が高まっている。
- 岸田政権は、こうした世界の動きを背景に、有事の危機感を必要以上に煽り、防衛費の倍増を始め安保関連三文書など、安全保障の新たな見直しが一気に進められようとしている。ハト派と思っていたが安倍さん以上に国民の声を無視し、軍拡路線にのめり込んでいる。岸田政権が軍拡に走る理由や背景、その先の日本にどのようなことが見通せるのか。
- 労働組合(連合)の一部産別では、自民党支持の流れも出てきている。こうした流れは、戦前、日中戦争から太平洋戦争にかけて労働者を戦争に全面協力させるための組織、産業報国会のイメージーに重なっていくのではないか。
- 憲法9条(戦争放棄)だけで、日本の平和と安全は守れるのだろうか。武力とは違う方法で人々の暮らしは守れるのだろうか。最近の連合各産別は、こうした課題に向き合っているか疑問である。学習会や議論をしたという話は聞かないし、余裕がないのか、関心がないのか。労働組合は、こうした現状の中で、歴史に学び、いま、何をなすべきか、考えていかなければならない局面を迎えているのではないか。
- こんな議論をしているうちに、昨年、10月、中東地域で、ハマスとイスラエルの戦争が起きた。宗教や領土問題、民族紛争等、歴史的な背景もあり、ウクライナ侵攻とは次元の違う戦争ではあると思うが、この現状をどのようにみるか。
- イスラエルによるガザ地区への無差別攻撃を見るにつけ、ロシア軍によるウクライナ侵攻と重なる。ウクライナ支援は「正義を貫く戦い」とし豪語していたアメリカではあるが、イスラエルへの武器供与など、多くの子供たちを含む民間人が犠牲となっている。アメリカのイスラエル支援は人道上、大いに問題があり欺瞞と矛盾に満ちている。
このように新たな戦争前夜ともいえる今日の状況の中で、こうした問題意識に応えてくれるような講師を探すことは、時間的にも極めて困難が想定された。案の定、連合新潟をはじめ各方面、機関に講師の紹介をお願いしてきたが、なかなか講演料が安いのも含め、首を縦に振ってくれる人が見つからなかった。そこで最期は中央労福協講師団に学習会の主旨を説明し、無理を承知で講師の派遣をお願いした。
こうした苦労もあり、ようやく今年1月中旬、JP労組新潟連協の現役と退職者を合わせ100名を超える規模の政治学習会が実現した。参加者から協力してもらったアンケート結果から、「初めて聞いた」、「もっと聞きたかった」、「第二弾はあるか」など、かなり反響があり、とりわけ退職者からの評価と関心が高かったようだ。いずれ時期を見て県退職者連合の研修会で改めて講演をお願いしたいと考えている。