新潟県退職者連合 会長

早川 武男

 
 ガラケー時代の3Gから4Gくらいまでは、日本方式はガラパコスとの批判はあったが、それでも世界の先頭付近を走っていた。しかし、5Gは米欧中などと比較し明らかに遅れている。この要因は携帯大手3社の責任というより、アメリカのアップル、中国のファーウェイ、北欧のエリクソン、ノキアなどに席捲され、日本メーカーが対応しきれなかったことにある・・と思う。
 
 5Gの普及と次なる6Gの開発に注ぎ込む資金は、大手3社で数兆円を超える膨大なものになる。だから政府が鉦太鼓で新たな事業者を探しても、MNO(移動体通信網を自社で保有する事業者・いわゆる大手)への参入は進まない。総務省の懸命な後押しで漸く参入した楽天が、本格サービスに苦労しているのも、膨大な資金の調達が難しいからだ。資金問題の難しさは米欧も同じで、アメリカでさえ大手携帯会社は3~4社にとどまっている。
 
 菅首相は、「いまより4割程度は下げられる。値下げが実現しない場合、電波利用料の見直しをせざるを得ない」と言う。大手3社の電波使用料は個々の携帯電話利用者が負担しているが、2019年度、ドコモが184億円、KDDIが115億円、ソフトバンクが150億円を支払っている。放送業界はずいぶんと派手な事業を展開しながら、NHKが25億円、日本テレビやTBS等の民放各社6億円強と、ごく僅だ。
 
 携帯電話料金の引き下げはありがたいが、木を見て森を見ないような菅首相のこだわりは、次への投資に重大な禍根を残す恐れがないか心配だ。
 
 平成の30年間で日本企業は衰退の一途をたどり、平成元年(1989年)、世界の企業の株価時価総額を比べると、トップ50社の中に日本企業は26社もあったが、いまはトヨタ自動車1社のみだ。そのトヨタも、コロナ禍によってEVへの傾斜が一気に深まり、EV専門メーカー、アメリカのテスラ社に時価総額は抜かれてしまった。
世界のGDPに占める日本の割合も、元年には16%強を占めていたが、いまは6%前後に落ち込んだ。令和22年(2040年)には、3.8%まで低下すると言われている。
 
 現在、アメリカのグーグルやアマゾンがクラウド事業(ユーザーがインフラを持たなくてもインターネットを通じてサービスを利用できる)で日本市場を侵食しているが、6G時代には、日本企業が世界を席捲するような、国家ビジョンを構想することが政府の役割ではないかと思う。
 
 
 この原稿を書いている時に、「菅首相、学術会議会員6人を任命せず」との報道を耳にした。共謀罪や特定秘密保護法などを批判した科学者が任命されなかった。
 
 菅首相は官房長官時代、政権と自分に異論を述べた官僚に対し、左遷人事で報復していたが、それが官僚の政治家に対する忖度と、公文書の改ざん・隠ぺい・廃棄につながった。
 
 日本学術会議は、先の大戦で科学者が戦争遂行に協力をした反省から、政府から独立した立場で、科学を行政や産業、国民生活に反映さえることを目的に、国の特別機関として設立されたものだ。だから、中曽根元首相は「政府が言うのは形式的な任命にすぎない。学問の自由・独立はあくまで保障される」と言われていたと聞くし、今回の措置は、言論弾圧を続ける中国習近平主席と五十歩百歩にも見える。
 
 船田元・元経済企画庁長官以外に、「殿、お止め下さい」と諫言する人がいなかったのか摩訶不思議である。