新潟県退職者連合 顧問

早川 武男

 2003年のことです。ポーランドのアウシュビッツ強制収容所を訪れました。170万人余の犠牲者をだした収容所跡には、拷問部屋、牢獄、ガス室、火葬室や射殺に使われた壁、彼ら彼女らの遺品などが保存されており、ヒトラーによるポーランド人とユダヤ人に対する残忍な集団的殺戮行為の一端にふれました。星移り時が流れて2022年。今度は、プーチンによるウクライナの人々に対する破壊と虐殺の蛮行を、毎日のように見ることになりました。愚鈍な私でもさすがに心が痛みます。
 
 プーチン政権の残忍な暴挙に対して、元外務審議官の田中均さんや元欧亜局長の東郷和彦さんは、日本は日米安保条約の下で米国との協力を強化するとともに、G7という枠組みの再活性化と民主主義国の結束が大事である旨を言われ、併せて外交交渉の重要性を主張されています。
 ただ、東郷さんは「日本こそ仲介役を担うべき。27回の首脳会談を重ねた安倍前首相が適任であり首相特使として派遣しプーチンを諫めるべき」と言われています。冗談と思いますが、それは無理でしょう。安倍さんは「ウラージミル。君と僕は同じ未来を見ている」「2人の力で、駆けて、駆けて、駆け抜けようではありませんか」と仰いましたが、いまはプーチンとの関係は何事もなかったかのようにしれっとしていますし、またぞろ適当にあしらわれるだけです。
 その安倍さんは「核共有」(米国の核兵器を日本国内に配備し共同で利用する――配備した地域が攻撃される恐れあり)を唱えています。広島や長崎の平和式典では、毎年のように「日本は核兵器を持たず、作らず、持ちこませず」と、「非核3原則の堅持」を言われてきたにもかかわらずです。巷間、日本維新の会松井代表のように「非核3原則は戦後80年の価値観だ。昭和の価値観のまま令和もいくのか。議論すべきだ」と、議論の必要性を説かれる方もいます。議論そのものを否定するわけではありません。しかし詭弁がお家芸の維新です。松井代表の「議論すべき」は「安倍案で決めろ」と言うことでしょう。
 
 北朝鮮や中国の振る舞いをみて日本の安全を心配する方が多いようです。国会の若いセンセイ方は勇ましいことを仰いますが、歳出を税収で賄えない財政力と目が眩むような膨大な債務、資源が無い国土といったことを勘案しますと、日米安保の維持や自衛隊の整備もさることながら、不戦をしっかりと保持する意思をもった外交力の向上こそ重要です。それが抑止力の強化と思います。